地域政府政策の影響による競合と相律理論の再考
 ―中国雲南省寧蒗県永寧鎮ザシ村を例にして―
曹 旭東

 1990年代から、景観人類学は日本の人類学研究の視野に入り始めた。近年、景観人類学理論の構築に伴い、競合理論、相律理論を含めて、広範囲の人類学者に議論された。本研究では、中国雲南省のモソ人の家屋の「重点保護民居」を認定することを例として、地域政府政策の影響下での一方的強制相律構造の構築可能性を提案する。それによって景観人類学における相律理論の補足を行う。

アジア大陸のシャーマン
 ―バクシの過去と現在、そして未来―
ハルミルザエヴァ・サイダ

 バクシは、ウズベキスタン、キルギス、カザフスタン及び新疆ウイグル自治区等において活動してきた宗教者・芸能者である。
 民族文化・伝統文化が失われつつある今日では、アジア各地のバクシの系統が途絶えないうちに、芸能活動や宗教儀礼等、バクシが古くから継承してきた文化について調査・研究をすることが伝承文学・民俗学研究の課題の一つであろう。
 本発表では、バクシの芸能活動や宗教儀礼、及びバクシが担ってきた文化の保存・継承の必要性について考察したい。

歌垣と神仙譚
 ―『万葉集』「仙柘枝の歌三首」をめぐって―
遠藤 耕太郎

 『万葉集』「仙柘枝の歌三首」(巻三・385~387)の第一首は、杵島岳の歌垣で歌われた歌垣歌である。第二首、第三首は、かつて仙女柘枝がこの吉野川で漁夫味稲に出会ったことを詠んだものである。従来、第一首は民間に流布していた歌垣歌(民謡)が讒入したとする説と、神仙伝説が何らかの意味合いで民謡を取り込んだという説があった。現在、後者が有力だが、なぜそれが歌垣歌でなければならなかったのかについては、ほとんど論じられることはない。唯一、中西進が宮廷踏歌に奉仕した渡来人の伝え持つ伝説であったという説を出している。本発表では、東アジア踏歌文化圏という枠組みの中で、歌垣が神仙譚の場となった理由を探ってみたい。