蘭坪普米族の哭き歌 -結婚式での悲哀の共有-
飯島 奨
本発表は蘭坪県普米族、特に龍潭村の普米族の掛け合い歌の報告である。この掛け合い歌は結婚式で行われるもので、新郎側、新婦側に分かれ、彼らの兄弟姉妹・オジオバ、その他親族・友人らがそれぞれの側を代表して歌を掛け合い、新郎新婦、及び彼らの両親は歌わない。歌の目的はまだ明らかに出来ていないが、歌詞は概ね新婦の気持ちを代弁するものとなっている。例えば、両親・姉妹との別れや嫁ぎ先での新婦の生活の苦しさ・辛さや孤独感を歌っている。発表者は以上の掛け合い歌を哭き歌と位置付け、その歌詞のことば表現に注目し、結婚式でどのような悲哀を歌い手と聞き手が共有するかに注目したい。まだ予備的調査の段階のため、第一次資料の現状を報告するにとどめたい。
踏喪歌の生態 -映像を軸に-
山田 直巳
雲南省大理州雲龍県では、葬儀に伴って踏喪歌が実施される。それは、日本の葬儀の展開に比していえば、通夜の時間帯ということになる。現代日本では、通夜といっても暮れ時2時間といった状況であろうが、こちらは文字通り一晩唄い続けるのを原則とする。
口承、歌唱文化の一翼をになうものであるが、その実施は大理州でも雲龍県に限定される。また実施には様々な条件が付けられ、葬送儀礼の重要な要素となっている。「歌師」の存在、対になって焚き火を挟んで並ぶこと、交互に唄いあうこと、内容が死者と深く関わる場合があること、集う近隣・縁者が一晩これに付き合うこと、唄う話題に用いられるのが著名な「祝英台と梁山泊」、「孝子伝」であったりすること、等々を特色としている。
時間の限定もあるので、全てには触れられないと思うが、ビデオ映像を見て頂きながら具体を報告してみたい。
映画上映と解説
『銅鼓と送魂-広西省南丹県白褲(ペークー)褲ヤオの葬式-』
北村 皆雄
中国の広西省壮族自治区北部、貴州省との省境に近い南丹県の山岳地帯には白褲(ペークー)褲ヤオが居住する。中国ではヤオ族の支系とされているが、習俗の類似、文化・神話の共通性、銅鼓の使用や世界観からみて、むしろミャオ族の系統と考えた方がいいとの最近の研究もある。
発表者は2004年10月から11月にかけて、入国の極めて難しいこの地を訪れ葬式を撮影した。ここの葬式は、2000年以上前に中国西南部から東南アジアにかけて隆盛した青銅楽器「銅鼓」の音で、死者の魂をあの世に送るものであった。一斉に哭く女性たちの声は村落に広がり、供犠される水牛には男も加わり慟哭する想像を超えた葬儀であった。死と豊穣を結ぶもの、性別を持つ生命体とみなされる銅鼓とは何か?
20数個の銅鼓の演奏を指揮する木鼓も登場する。木鼓を創生神話の猿の格好で打ち続け歓声をあげる。葬儀の主要な主役である銅鼓を探りつつ、不思議な白褲(ペークー)褲ヤオの送魂儀礼を追って見たい。翌年2005年、この地域の再入国は拒否された。