佐藤 若菜
『中国貴州省の「民族」間関係:ミャオ族のサブ・グループと漢族に着目して』
本発表の目的は、中国貴州省の「民族」間関係を衣装の着用と製作、婚姻、民間信仰、日常的なやりとりから考察することである。まず、ミャオ族内部のサブ・グループ間関係を取り上げる。先行研究では、ミャオ族内部において高地/低地の差異化が行われていることが指摘されてきた。それに対して、衣装や婚姻、民間信仰、日常的なやりとりにおいて、サブ・グループ間の差異がどのように語られるのかを明らかにする。次に、ミャオ族と漢族との関係に着目し、「民族」を変更する営みを取り上げる。清朝より、貴州省東南部ではミャオ化する漢族がいることが指摘されてきた。それに対して、本発表ではなぜミャオ化するのかを現在の状況から明らかにするとともに、漢族となったミャオ族の事例にも着眼することで、「民族」変更の契機について検討する。
伊藤 悟
『見せる歌芸能へ変容する北部タイの「ソー」』
タイ王国北部に伝わる歌芸能「ソー」は現在も上座仏教儀礼や冠婚葬祭などの機会に上演されている。「ソー」とは訓練を積んだ男女一組の歌師「チャーンソー」が管楽器等の伴奏にあわせて掛け合いで歌う芸能と紹介されている。歌師たちは約10種の曲調を用い、上演の機会に関連した伝統知識や宗教教義、民間伝承、そして様々な風俗習慣などを歌う。元来、「ソー」は「聴かせる民俗芸能」であったが、現在は急変する社会環境のなかで「見せる芸術」へと変容している。本発表では「ソー」の変容を聴衆(観客)と歌師の関係性の変化と捉え、歌師たちの証言と参与観察にもとづいてパフォーマンス、社会環境、伝承活動の3つの側面から考察する。