現代中国におけるモソ人の「走婚」関係
曹 旭東

1950年以来、中国国家は少数民族の民族認定を行ない、その過程において、モソ人はナシ族の群族(下位分類)と認定された。その結果、モソ人の「走婚」関係は中国国家の『婚姻法』の中で承認されることがなく、婚姻に関するさまざまな社会福祉サービスを受けられないことになっている。こういう状況下で、モソ社会では「走婚」関係を自ら「放棄」する現象が起こっている。だが、この「放棄」は、彼らが策略的に契約的な婚姻関係を選んだということでもある。


口頭伝承における神話要素と語り方の関連について
――モソ人のトリックスター伝承と道祖神伝承をめぐって――
生駒 桃子

モソ人のトリックスター「アクトバ」の口頭伝承は、兄妹始祖神話の要素を取り込み、アクトバと妹の性交を面白おかしく娯楽として語る。一方で日本の道祖神伝承は、近親相姦の禁忌を強く意識し、兄妹が心中する形で道祖神の起源を語る。
本発表では、この語りの差について、神話や昔話、伝説といったカテゴリーの違いから捉えるだけでなく、モソ人の「アクトバ」伝承の語り方に注目しながら、それぞれを語る人々の心性にまで踏み込んで考えてみたい。


風水書に記された亀甲墓の寸法
――魯般尺による吉凶判断の受容と墓への適用――
又吉 光邦

沖縄の墳墓の形態の一つに亀甲墓がある。亀甲墓は風水という地理学の視点から語られることが多いが、本報告では、19世紀に記された風水書に記された亀甲墓の寸法について、風水の長さにおける吉凶判断の視点で捉えた結果を述べる。具体的には、「吉」という文字が確認できることを頼りに、長さにおける吉凶を測る魯般尺で各寸法を測定し、沖縄の亀甲墓が尺度においても風水思想を受容した結果であると強く推定できることを示す。