【シンポジウムの趣旨】
手塚 恵子(京都先端科学大学)

 アジア民族文化学会の会員の多くは、1980 年代よりアジアを中心にフィールドワークを行ってきました。1980 年代というのは、調査のための機材としてビデオカメラが手軽に用いられるようになり、調査データの質と量が共に大きく変わった時期でもありました。この 40 年間で調査地の様子もずいぶん変化し、かつて記録した映像資料は現在では貴重な記録となりました。
 本シンポジウムでは、フィールドワーカーとしてご自身の調査活動をされるとともに、博物館において保存や展示のための研究をされてきた研究者の皆さんにご登壇いただき、調査の資料を整理、保存し、それを研究に活用すること、またその為の仕組みを構築することについて、ご発表いただきます。
 シンポジウムでの議論を通じて、会員の皆さんの手元にある貴重な調査資料をどのようにして整理しそれを活用していくか、また次の世代に引き継いでいくのかを考えたいと思います。

芸能の伝承における映像音響資料活用の可能性と課題
福岡正太(国立民族学博物館)

 音と動きを記録し、簡単に繰り返し視聴できるビデオ映像は、芸能研究に不可欠なツールとして定着した。この 20 年ほどで、パソコンやスマホで映像ファイルを容易に扱えるようになると、インターネット上での公開を前提とした映像の活用についての議論も高まり、過去に記録された映像のデジタル化とウェブ公開への要求も日々大きくなっている。本発表では、カンボジアの大型影絵芝居の映像記録と映像番組の作成、および徳之島の民俗芸能の映像記録と「フォーラム型情報ミュージアム」の構築などを例として、芸能研究における映像活用の課題について論じる。特に記録対象とした芸能の伝承における映像活用を念頭に、従来言われてきた伝承が途絶えたときに復興に資するような「お手本としての映像」に加えて、人から人への伝承を尊重しつつ、様々な立場からの知識や経験を交換し、議論を深める場としての映像活用の可能性について検討をおこなう。

研究者旧蔵資料のアーカイブ化と地域博物館
渡部圭一(京都先端科学大学)
加藤秀雄(滋賀県立琵琶湖博物館)

 日本の農山漁村をフィールドとして進展してきた日本民俗学では、柳田国男、南方熊楠など草創期の研究者や、戦後の調査方法論の確立に寄与した研究者が残した資料(研究者旧蔵資料)のアーカイブ化が始められている。それらの資料は、在職中の研究機関の博物館や、フィールドにゆかりのある地域博物館に寄贈される場合が多い。
 一方で現在、歴史民俗分野の公立博物館では、クラウド型のサービスを導入した資料情報の公開が一般化しつつある。安価に業務委託契約ができ、初期投資や専門的な技術職員を必要としないため、小規模な公立館や団体、学会、大学研究室単位でも本格的なデータベースの公開が可能となっている。
 この報告では、日本民俗学と関連分野の研究者旧蔵資料データベースの公開状況、近年の中小規模の公立博物館でのデータベースの制作状況をふまえ、滋賀県立琵琶湖博物館で着手した近江を代表する民俗学者・橋本鉄男氏(1917-1996)の旧蔵資料の整理における課題について検討する。